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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)4078号 判決 1975年10月31日

昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件原告(以下単に原告という)

昭和四九年(ワ)第二四五号事件被告

灘清子

昭和四九年(ワ)第二四五号事件原告(以下単に原告という)

石田春男

昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件被告(以下単に被告という)

昭和四九年(ワ)第二四五号事件被告

東和信用組合

主文

一  昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件について

被告東和信用組合は原告灘清子に対し、金六三三万六、〇〇〇円と、うち金六〇〇万円に対する昭和四二年七月三〇日から支払いずみまで日歩七厘の割合による金員を支払え。

原告灘清子のその余の請求を棄却する。

二  昭和四九年(ワ)第二四五号事件について

原告石田春男の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件について生じた分は被告東和信用組合の、昭和四九年(ワ)第二四五号事件について生じた分は原告石田春男の、各負担とする。

四  この判決は原告灘清子の勝訴部分に限り、仮に執行することができ、被告東和信用組合は金四〇〇万円の担保を供して仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件について)

一  原告灘清子

(第一次請求)

被告組合は同原告に対し、金六三三万六、〇〇〇円とこれに対する昭和四二年七月三〇日から支払いずみまで日歩七厘の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告組合の負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

(第二次請求)

被告組合は同原告に対し、金六〇〇万円とこれに対する昭和四一年七月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告組合の負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

(第三次請求)

被告組合は同原告に対し、金六〇〇万円とこれに対する昭和四二年五月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告組合の負担とする。

との判決と仮執行の宣言。

二  被告組合

原告灘清子の請求を棄却する。

訴訟費用は同原告の負担とする。

との判決。

(昭和四九年(ワ)第二四五号事件について)

一  原告石田春男

(主位的請求)

原告石田春男と被告組合および原告灘清子との間で、原告石田春男が昭和四一年一二月七日付被告組合の別段預金債権金二三六万九、〇九二円の債権を有することを確認する。

(予備的請求)

原告石田春男と同灘清子との間で、原告石田春男が別紙目録記載の供託金の還付請求権を有することを確認する。

訴訟費用は原告灘清子と被告組合の負担とする。

との判決。

二  原告灘清子と被告組合

原告石田春男の請求を棄却する。

訴訟費用は原告石田春男の負担とする。

との判決。

第二  当事者の事実上の主張

(昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件)

一  請求の原因事実

(定期預金返還請求・第一次請求の請求の原因事実)

(一) 原告灘清子の母である訴外亡灘つねは、昭和四一年七月二九日、被告組合に対し、「石田春男」名義で金六〇〇万円を、期間一年、利息年五分六厘、満期日後の利息日歩七厘の約束で定期預金として預け入れた(証書番号七一二八号)。

(二) 灘つねは、昭和四二年六月二八日死亡し、原告灘清子は、相続によつて右定期預金債権を承継取得した。

(三) そこで、同原告は、被告組合に対し、主位的に本件定期預金の元金六〇〇万円と、満期日までの利息金三三万六、〇〇〇円との合計金六三三万六、〇〇〇円と、これに対する満期日の翌日である昭和四二年七月三〇日から支払いずみまで約定利率日歩七厘による利息の支払いを求める。

(不法行為に基づく損害賠償請求・第二次、第三次請求の請求の原因事実)

(四) 原告石田春男は、当初から自己のため費消する目的で、昭和四一年七月二九日、灘つねに対し「石田春男」名義で被告組合に預金すれば年一割もの利息が得られると嘘を言つて欺罔し、灘つねが被告組合と定期預金契約を締結するためにさし出した金六〇〇万円を騙し取つた。

(五) 仮に同日の金銭授受の事実が認められないとしても、灘つねは、同年四月中旬、原告石田春男に対し額面金六〇〇万円の小切手を交付して被告組合に定期預金をすることの委託をした。

原告石田春男は、右委託にもとづき第一項記載のとおり被告組合と定期預金契約を締結した。

原告石田春男は、昭和四一年一二月ころ、灘つねに無断で前記定期預金債権を自己の被告組合に対する既存債務支払いの担保として提供し、その一部を相殺によつて決済し、昭和四二年五月二六日、灘つねの相続人である原告灘清子が被告組合に対し本件定期預金の満期日前払戻し請求をしたとき、被告組合に対し本件定期預金債権の権利者が自己であるから、その払戻しをしないよう依頼し、遅くとも、同日には、灘つねの金六〇〇万円を横領した。

(六) 原告石田春男は、被告組合の職員として預金の勧誘、預金契約締結等の業務に従事していたものであり、その事業の執行について灘つねに金六〇〇万円の損害を加えたのであるから、被告組合は、原告石田春男の使用者としてその損害を賠償する義務がある。

(七) 灘つねは昭和四二年六月二八日死亡し、原告灘清子は、相続によつて金六〇〇万円の損害賠償請求権を承継取得した。

(八) そこで、原告灘清子は、被告組合に対し、予備的に金六〇〇万円と、これに対する不法行為の日である昭和四一年七月二九日又は昭和四二年五月二六日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告組合の答弁と主張

(答弁)

(一) 請求の原因事実中第一項の事実のうち、被告組合が原告灘清子主張の「石田春男」名義の定期預金の預入れを受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件定期預金の預金者は、名義どおり原告石田春男である。

(二) 同第二項の事実のうち、原告灘清子主張の日に灘つねが死亡したこと、同原告が灘つねの相続人であることは認めるが、同原告が本件定期預金債権を単独で承継取得したことは不知。

(三) 同第四項の事実は否認する。

(四) 同第五項の事実のうち、原告石田春男が、被告組合と本件定期預金契約を締結したこと、同原告が本件定期預金債権を自己の被告組合に対する債務の支払いの担保として提供し、相殺によつて決済したこと、被告組合に対し本件定期預金債権が自己のものであるから、原告灘清子に支払わないよう依頼したことは認め、その余の事実は不知。

(五) 同第六項の事実は否認する。ただし、原告石田春男が被告組合の職員であつたことは認める。

(六) 同第七項の事実のうち、原告灘清子主張のとおり、灘つねが死亡し、同原告が灘つねの相続人であることは認め、その余の事実は否認する。

(主張)

(定期預金返還請求に対して)

(一) 被告組合は、原告石田春男に対し昭和四一年一一月五日現在金三六七万一、〇〇〇円の貸付金債権があり、同原告が同年一二月七日、右貸付金債権のうち金六七万一、〇〇〇円について本件定期預金債権と対当額で相殺することを承諾したので、被告組合は、同日、本件定期預金契約を解約し、同原告に対する貸付金六七万一、〇〇〇円とその対当額で相殺する旨の意思表示をした。従つて、本件定期預金は合意解約されてなくなつた。

(二) 被告組合は、前項で相殺した残額金五三二万九、〇〇〇円と解約日までの利息金七万〇、〇九二円の合計金五三九万九、〇九二円を、同日付で同原告名義の別段預金にした。

(三) 同原告は、被告組合に対し、昭和四二年六月一日、右別段預金のうち金一〇〇万円を訴外徳田辰己の普通預金口座に、同月八日、右別段預金のうち金一五〇万円を訴外松岡滋夫の定期預金口座に各振り替えることを依頼したので、被告組合は、同月一〇日、右依頼に従い合計金二五〇万円を振り替えた。

(四) 被告組合は、同年七月二九日、右別段預金について、訴外大崎ヨシヱ、同久堀主四郎を債権者、同原告を債務者、被告組合を第三債務者とする大阪地方裁判所昭和四二年(ル)第二、六七一号、(ヲ)第二、七六七号債権差押転付命令の正本の送達を受けたので、同年八月二日、大崎ヨシヱに対し金三三万円、久堀主四郎に対し金二〇万円をいずれも別段預金から支払つた。

(五) 被告組合は、本件定期預金の債権者が同原告であると信じかつ信じたことに過失がなかつたのであるから、第一ないし第四項の解約、相殺、振替、支払いは有効である。

(六) 被告組合は、昭和四二年八月ころ、原告灘清子から本件定期預金の払戻しの請求を受けるとともに、原告石田春男から何人に対しても右預金の支払いをしないでほしいとの依頼を受けたので、右別段預金の債権者が灘つねか原告石田春男か確知できなくなつたので、同月一五日、その残額金二三九万九、〇九二円について原告両名を被供託者として大阪法務局に弁済供託した。そして、この供託は適法有効である。

(損害賠償請求に対して)

(七) 灘つねは、原告石田春男を信用して私的な金銭の取引に利用していたもので、その一環として本件事故が発生したのであるから、灘つねに重大な過失がある。従つて、賠償額の算定について、右過失を斟酌すべきである。

(八) 原告石田春男は、被告組合では、管理課員として債権の整理に当つていたもので、原告灘清子が主張する業務に従事していなかつた。従つて、原告灘清子が主張する原告石田春男の行為は、被告組合の業務執行によるものとはいえない。

三  被告組合の主張に対する原告灘清子の答弁

被告組合が弁済供託したことは認め、その余の事実は否認する。

被告組合は、昭和四二年五月下旬ころには、本件定期預金の債権者が灘つねであることを知り、又は知りうべきであつたから、被告組合のした弁済供託は、民法四九四条の要件を欠き無効である。

(昭和四九年(ワ)第二四五号事件)

一  請求の原因事実

(一)  原告石田春男は、昭和四一年七月二九日、被告組合に対し、定期預金として金六〇〇万円を期間一年で預け入れ、同年一二月七日、右定期預金契約を解約して被告組合に対し金二三六万九、〇九二円を別段預金として預け入れた。

(二)  被告組合は、昭和四二年八月一五日、原告石田春男が右定期預金ないし別段預金の債権者であることを知り又は知ることができたのに、大阪法務局に対し、定期預金債権者が同原告か又は灘つねであるか過失なくして確知できないことを理由に、別紙目録記載のとおり金二三六万九、〇九二円を供託したものであるから、この供託は無効である。

仮に供託が有効であるならば、同原告が右供託金について還付請求権をもつことになる。

(三)  そこで、同原告は、主位的に被告組合および原告灘清子との間で被告組合に対し別段預金債権金二三六万九、〇九二円があることの確認を求め、予備的に原告灘清子との間で、原告石田春男が同目録記載の供託金について還付請求権のあることの確認を求める。

二  被告組合の答弁

(一)  請求の原因事実中第一項の事実は認める。

(二)  同第二項の事実のうち、被告組合が供託したことは認め、その余の事実は否認する。被告組合がした供託は有効である。

三  原告灘清子の答弁

(一)  請求の原因事実中第一項の事実は否認する。

(二)  同第二項の事実のうち、被告組合がした供託が無効であることは認め、その余の事実は否認する。

第三  証拠関係(省略)

理由

第一  昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件についての判断

(定期預金返還請求についての判断)

一  被告組合は、昭和四一年七月二九日、「石田春男」名義で、金六〇〇万円を定期預金として受け入れた(証書番号七一二八号)ことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件の争点であるこの定期預金の預金者が、原告石田春男であるか、灘つねであるかについて判断する。

(一) 前項の争いのない事実、原本の存在と成立に争いがない甲第五ないし第八号証の各一、二、同第九号証、成立に争いがない同第二ないし第四号証、乙第一一号証、原告灘清子の本人尋問の結果によつて成立が認められる甲第一〇号証、公証人作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人吉田洋三の証言によつて成立が認められる同第一一号証の一、二、証人塚口信太郎の証言によつて成立が認められる乙第一号証の一ないし一二、同第二号証の一ないし三、同第三号証の一、二、同第一四号証、証人石田春男(一部)、同塚口信太郎(一部)、同吉田洋三、同赤井勇、同長谷川京三、同吉田準三の各証言、原告灘清子の本人尋問の結果を総合すると、次のことが認められ、この認定に反する証人石田春男、同塚口信太郎の各証言の一部、原告石田春男の本人尋問の結果は採用しないし、ほかにこの認定の妨げになる証拠はない。

(1) 原告石田春男は、昭和三九年四月被告組合に雇われ、その管理部職員として貸付の調査と回収の事務を担当していたものであるが、昭和四〇年春ころ、灘つねに預金の勧誘をした結果、灘つねは、そのころ、金一〇〇万円を定期預金として被告組合に同原告を介して預け入れた。

(2) 灘つねは、同年六月ころ、原告石田春男から、同原告名義で被告組合に預金をすると職員預金として金利が良くなるとすすめられ、金二〇〇万円を「石田春男」名義で被告組合に定期預金した。そのとき使用した「石田」名義の印鑑は、同原告がこの預金のために新調したもので、同原告は、この印鑑と定期預金証書を、灘つねに手交した。この定期預金は、昭和四一年六月一七日更新された。

(3) 灘つねは、昭和四〇年七月ころ、同原告の懇請により訴外萩家与太郎に金五一〇万円を貸し付け、その担保として同訴外人所有の土地に抵当権を設定することにした。そこで、その手続を同原告に一任したところ、同原告は、「石田春男」名義で貸し付け、抵当権者を「石田春男」としてその設定登記手続をしたが、その権利証は灘つねに手交された。

同原告は、昭和四一年四月、萩家与太郎から貸金の弁済として額面金六〇〇万円の小切手一通の交付を受けたので、この小切手を灘つねに手渡し、定期預金にすることを勧めた。そこで、灘つねに、これを「石田春男」名義で被告組合の定期預金にすることにし、同原告が持参した定期預金申込書に保管中の「石田」の印鑑を押捺し、同原告に右預金手続を一任した。

(4) 同原告は、同年四月二三日、被告組合に依頼して右小切手を取り立て、これを被告組合の別段預金に入れ、同月二六日、別段預金から金六〇〇万円を引き出して、うち金五五〇万円を三か月の定期預金にし、同年七月二九日、右金五五〇万円に金五〇万円を加えた金六〇〇万円を一年の定期預金にした。この金六〇〇万円の定期預金が本件定期預金である。

灘つねは、同原告が本件定期預金の証書を持つてこないため、たびたび同原告に証書を持つてくるよう催促した結果、同年八月ころ、本件定期預金証書(甲第二号証)の交付を受けた。灘つねは、以来、この証書を「石田」名義の印鑑と一緒に保管していた。

(二) 以上認定の事実によると、灘つねは、同原告を代理人ないし使者として、自己が出捐した金六〇〇万円を被告組合に定期預金したものであるから、本件定期預金の預金者は、灘つねであるとするほかはない。

(三) 灘つねが昭和四二年六月二八日死亡したことと、原告灘清子が灘つねの相続人であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、同原告が灘つねの唯一の相続人であることが認められるから、同原告は、本件定期預金債権を相続によつて承継取得したことになる。

三  被告組合の抗弁についての判断

(一) 被告組合は、本件定期預金の預金者が原告石田春男であることを前提に、本件定期預金を同原告の承諾を得て合意解除したと主張しているが、その前提が認められない限り、この合意解除は無効である。

(二) 被告組合は、本件定期預金の預金者が原告灘清子であつても、原告石田春男は本件定期預金債権の準占有者であり、被告組合は善意で弁済(相殺)したと抗弁しているが、本件に顕われた全証拠を仔細に検討しても、この事実が認められる的確な証拠はない。

却つて、前記認定事実や、証人塚口信太郎の証言によつて成立が認められる乙第二号証の三、同第三号証の一、同第四号証、同証言、証人赤井勇、同長谷川京三の各証言によると、次のことが認められる。

(1) 原告石田春男は、昭和四一年一二月までに、被告組合から合計金三六七万一、〇〇〇円を借りていたが、うち金六七万一、〇〇〇円については、無担保であつた。

(2) 被告組合は、そのころ、同原告に対し、無担保の貸金の担保として本件定期預金を提供するよう命じたが、同原告は、右担保手続のために本件定期預金の証書を差し入れなかつた。それは、灘つねが同証書を所持していたからである。

(3) そこで、被告組合は、本件定期預金証書を差し入れなかつた同原告に不信を抱き、後日紛争が生じるのをおそれ、早急に無担保貸金を決済しようと考え、同月七日、右貸金と本件定期預金債権とその対当額で相殺することについて同原告の承諾を得たうえ、本件定期預金を解約して、貸金と対当額で相殺し、その残額金五三二万九、〇〇〇円と利息金七万〇、〇九二円合計金五三九万九、〇九二円を同原告名義の別段預金に振り込んだ。

(4) しかし、被告組合は、解約する際、同原告に対し、本件定期預金の証書と印鑑を被告組合に持参させなかつたし、持参できない理由を仔細に調査しなかつた。

そうすると、被告組合と原告石田春男との間で、本件定期預金債権を解約したうえ反対債権と相殺したことが、被告組合にとつて、債権の準占有者に対する善意の弁済(相殺)とは到底いえないから、本件定期預金債権は依然として原告灘清子の債権として存続しているとするのが至当である。

(三) 被告組合は、原告石田春男の依頼により、別段預金から他人の預金口座に振りかえたり、債権差押転付命令の債権者へ支払つたと主張しているが、前述したとおり本件定期預金は依然として原告灘清子のものとして存続しており、原告石田春男の別段預金はないのであるから、別段預金からどのように支払われようと、原告灘清子の本件定期預金と無関係であり、この点で、被告組合の右支払いは、法律上保護を受ける余地がない。

(四) 被告組合は、昭和四二年八月一五日にした供託が有効であると抗弁しているが、前述したとおり、原告石田春男の別段預金はないのであるから、それを弁済供託しても、本件定期預金債権を弁済供託したことにならないばかりか、この供託は次に認定する事実からして、被告組合が本件定期預金の債権者を原告灘清子であると確知できたのに供託したもので、民法四九四条の要件を欠き無効である。

前掲甲第二ないし第四号証、同第五ないし第八号証の一、二、同第九号証、証人吉田洋三、同吉田準三、同塚口信太郎、同長谷川京三の各証言、原告灘清子の本人尋問の結果によると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 原告灘清子は、昭和四二年三月、金二〇〇万円の定期預金(満期日同年六月一七日)を解約する必要があつたので、原告石田春男にこの解約手続を一任したが、同原告はこれをしないばかりか、原告灘清子に証書の裏に「担」と書かれた右定期預金証書を手交した。

不審に思つた原告灘清子は、同年三月二八日、原告石田春男の上司である総務部長訴外宮城重成に対し、右定期預金は、「石田春男」名義になつているが、灘つねのものである旨説明した。宮城重成は、原告灘清子に預金証書の持参者に支払う旨の書面(甲第九号証)を手交した。

(2) 原告灘清子は、前記のとおり原告石田春男の行動に不審の念を抱き、本件定期預金を解約しようと考え、同年五月三〇日、訴外吉田洋三らとともに被告組合に行き、常務理事訴外塚口信太郎に証書と印鑑を示して本件定期預金の解約を申し入れた。

塚口信太郎は、原告石田春男に聞いてからでないと申入れに応じられないと答えた。しかし、そのころ同原告は入院していたため、その確認ができなかつた。

(3) 原告石田春男は、同月三一日、被告組合を退職したが、同原告の退職理由は、職員として房しくない行跡があつたことによる。

(4) 原告石田春男は、同年七月二五日、灘つねの弟である訴外吉田準三の法律事務所で、吉田準三に本件定期預金についてただされたので、同原告は、灘つねのものである旨の念書(甲第三号証)と、同原告が灘つねに対し本件定期預金の残金を支払う旨の約定書(同第四号証)を作成して、吉田準三に手渡した。

(5) 原告灘清子は、本件定期預金の満期日である同月二九日、被告組合の塚口信太郎に前記念書と本件定期預金証書、「石田」名義の印鑑を示して預金の支払いを求めたが、塚口信太郎は、原告石田春男にきいてからでないと支払えない旨答えた。

(6) 被告組合の宮城重成は、同年八月一〇日ころ、原告石田春男を連れて吉田洋三の司法書士事務所に行つたが、同原告は、そこで本件定期預金が灘つねのものであることを認めた。

第二  昭和四九年(ワ)第二四五号事件についての判断

本件定期預金の預金者が原告灘清子であることは、さきに説示したとおりであるから、本件定期預金の預金者が原告石田春男であることを前提とする同原告の請求は、失当として棄却を免れない。

なお、被告組合は、本件定期預金者が原告石田春男であることを自白している。

しかし、当裁判所は、民訴法六九条二項を類推適用し、この自白にはいわゆる自白としての効力がないと解するものである。なぜなら、本件定期預金の預金者が誰であるかは、原告灘清子、原告石田春男、被告組合の三者間で合一確定を必要とするからである。

第三  むすび

原告灘清子の被告組合に対する請求(昭和四三年(ワ)第四、〇七八号事件)のうち第一次請求は被告組合に対し、金六三三万六、〇〇〇円と、うち金六〇〇万円に対する本件定期預金の満期日の翌日である昭和四二年七月三〇日から支払いずみまで約定利率日歩七厘の割合による利息金の支払いを求める範囲で正当であるから、第二次以下の請求の判断を省略してこの範囲で認容し、期間内の利息金三三万六、〇〇〇円に対する同日からの利息金の支払いを求める部分を失当として棄却し、原告石田春男の原告灘清子、被告組合に対する請求(昭和四九年(ワ)第二四五号事件)を失当として棄却し、民訴法八九条、九二条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

目録

被告組合が昭和四二年八月一五日大阪法務局昭和四二年度金第二七、五一二号で供託した被告組合に対する定期預金返還請求権者が原告石田春男であるか又は灘つねであるか過失なく確知できないことを原因とする供託金二三六万九、〇九二円とこれに対する利息金

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